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MISTY CASTLE -KANON ピロの大冒険♪(修正版)-

ピロの大冒険♪修正版

季節は春。温かな日差しが降り注ぐ中、私は家を飛び出した。
あれから既に数十分。行く当てもなく歩いている。
事の発端はとても些細なことだ。大した事はない。慣れ故の油断。
別段変わったことなどない。毎度のように横を通り過ぎただけだ。
しかし、それが悲劇を招いた。
名雪と呼ばれる少女。今朝も彼女の横を何事も無く通り過ぎた。
過ぎたはずだった。彼女が突然目覚めなければ。
お互い予想外の出来事に慌てふためき、一瞬だが世界が凍りついた。
秋子と呼ばれる家の主が玄関のドアを開けたのを引き金に、
咄嗟に私が走り始めていなければ、間違い無く少女に捕まっていただろう。
(ここら辺まで来れば大丈夫かな?)
「ねこさ〜ん、どこ〜? うにゅ・・・ねこさん・・・・・」
思うやいなや少女の声が聞こえた。
大分逃げてきたはずだが延々とついてくる。
(逃げなければ、逃げなければ)
更に歩を進める。
少なくとも、この間合いを維持していれば簡単に追いつかれはしない。
今までがそうであったのだから。
だが、これも浅知恵だった事を思い知らされた。
「あっ、ねこさん♪ ねこ〜、ねこ〜」
少女の足は思いの外速かった。
逃げ続けていれば捕まることは無いが、距離を離すことは困難だろう。
再び過酷な逃走劇の幕が開けた。
何故追われているのか。
それは分からないが直感が私に教えてくれる。
少女には近づくな、と。
(とりあえず人込みの中に紛れるか)
命からがら商店街に逃げこむ。
(そういえばずっと逃げていてお腹が減ったなぁ)
人込みの中を右へ左へ店を転々とするが、
めぼしい獲物は一向に見つからない。
(仕方がない・・・)
朝のこともあり多少恐怖心は残るが、背に腹はかえられない。
諦めて帰路につこうとする。
辺りに警戒しながら商店街を出ようとしたその時、人間の声がした。
「うぐぅ〜」
声からしてどうやらあの少女とは違うようだ。
ほっと一息つき、再び歩き始める。
「うぐぅ〜、どいてどいて〜」
声は段々大きくなる。何事かと思い、すぐさまそちらへ振り向く。
と、紙袋を抱えた少女がこちらに向かって走って来ているのが見えた。
大して速くはない。しかし、確実にこちらに近づいてきている。
私はその光景を暫く眺めていた。が、途中で大事なことに気がつく。
(よけなければ)
気がついた頃には、少女は眼前まで迫っていた。
それをギリギリのところでかわし、直ぐに体勢を立て直す。
一方、少女はそのまま電柱に激突していた。
同時に少女が手にしていた紙袋が地面に落ちる。
中には私の空腹を満たしてくれそうな魚の形をした獲物。
頭で考えるよりも先に体が動き、それを1匹だけ口にくわえていた。
とりあえず一口だけかじってみる。
魚ほどおいしくはないが、食べられなくはないだろう。
一口、更に一口と食を進める。
そして頭の部分を食べ終わった頃、やっと電柱の傍で動きがあった。
「うぐぅ〜、痛いよぉ〜・・・あっ、ボクのたいやき!」
少女が起き上がり、紙袋を拾い上げて中身を確認している。
「うぐぅ〜、1匹足りな〜い」
と、少女の視線がこちらを向く。
再び直感が私に教えてくれた。
逃げなさい、と。
その刹那、逃走劇が再開した。
ひとまず間合いを取るために全力で駆ける。
足の速さはどう考えても私のほうが上だ。
全力を出す必要など毛頭無い。が、念には念を。
名雪と呼ばれる少女でそれを学んだ。
ある程度距離を置き、後ろを振り返る。
やはり少女は私を追ってきていた。
しかし、気になることが1つだけある。
少女の後方をもう1人、知らない男が追ってきているのだ。
最初はただ走っているだけかと思ったのだが、
私が右へ左へと曲がると、2人も右へ左へと曲がったため、
追っ手と考えて間違いないらしい。
念のため何度も繰り返したが、結果は同じ。
遅れずについてきている。
(少女は私を追っているとしても、男に追われるのは何故だ?)
頭の中で何かが告げた。
止まってはいけない、と。
だが、私はこの忠告を無視した。
(このままでは埒があかない)
意を決して立ち止まる。
もちろん身の危険は覚悟の上なので、おとなしく審判の時を待つことにした。
暫くして2人が横を通り過ぎていく。
私はまるで最初から他人事であったかのようにその光景を眺めていた。
(なるほど、男は少女を追っていたのか。でも、何故?)
考えても答えは出そうにない。その疑問は結局解決しなかった。
仕方なく商店街をあとにする。
既に追っ手の影はない。
(お腹も膨らんだし、そろそろ家に帰るか)
幾らかの危険性を孕むが帰路につくことにした。
途中、塀の上で休息を取る。
春風が心地よい。先程までの慌しさはなく、
今はただ風の音だけが私を包んでいた。
と、遠くから歩み寄ってくるものが2人。
どちらも見覚えのない顔をしている。
(追っ手・・・ではなさそうだな)
確かな自信はないが、自分の判断を信じてそのままやり過ごすことにした。
2人が段々近づいてくる。そして私の横で止まった。
「あっ、ネコ」
「ネコがどうかしたの?」
「ううん、どこの家のネコかと思って」
「そんなのどこでもいいでしょ」
「確かにそうだけど」
「ほら、行くわよ栞」
「う、うん」
今度は逆に離れていく。それを見送る私。
(あの2人が角を曲がったら私も行くか。・・・!?)
刹那、恐ろしい光景が私を襲った。
見覚えのある顔をした少女がこちらに接近してくる。
直ぐに逃げようとしたが思うように身体が動かない。
その間に少女は先ほど横を通り過ぎたものたちと何やら話をしていた。
(何か・・・嫌な予感が)
やっとの思いで身体を動かすと、続いて、3人の視線を背中に受けながら走り始めた。
また間髪を入れず少女も追走してくる。
(これじゃあ家に帰ることが出来ないじゃないか)
行き先は決まっていない。当ても無く逃げ回るのみ。
(ここまで来ればさすがにもう追って来ないだろう)
後ろを振り向くと追っ手の姿は既になかった。
直に世界は闇に包まれるだろう。空には幾らか星が見えていた。
場所確認のために辺りを見渡してみる。見慣れた丘であることは直ぐに分かった。
初めてここに来た時。当時の記憶が呼び起こされる。
今と同じように夕方から夜に姿を変えようとしていた頃のこと。
当然だが独りではない。ある人と一緒だった。
助けられた時から今日という日まで、常に行動を共にしていた人。
けれども、今は独りきりだという哀しい現実。
それが闇と相交わってより強く感じられる。
(ふぅ・・・これからどうしようかなぁ・・・)
ふと頭に浮かんだこと。
私は独りでここに来たことなどなかった。今回が初めてだ。
それに先程も逃げることだけで頭が一杯で、道順などをろくに気にしていなかった。
故に帰り方が分からない。
(どうやって帰ろう・・・)
途方に暮れることしか出来ない私。
とその時、何かを被さったように突然私の周りだけが暗くなった。
同時に聞き慣れた声が私の耳に届く。
「あっ、ピロ、どうしたのよ、こんなところで〜」
私の名付け人。本人の声だ。
僅かな別れだったが、随分と懐かしく感じる。
「にゃ〜♪(これで帰れる〜♪)」
「どうしてお前がこんなところにいるの?」
「にゃ〜、にゃ〜・・・(大変だったんだよ〜、1日中追いかけられて〜・・・)」
「にゃ〜、にゃ〜、じゃ分からないわよ。・・・まあいいわ。帰るわよ、ピロ」
「にゃ〜♪(はいはい〜♪)」
すっかり定位置となった彼女の頭上。そこに身を下ろす。
「よし、それじゃあ自宅に向かってレッツゴー!」
「にゃ〜♪(ゴー♪)」
念願の帰路につく。長かった逃走劇も遂に幕が下りたのだ。
(今日は本当に疲れた)
既に1日が終わった気分でいる私。
もちろんその後家に帰ってから起こることなど、今の私は知る由もなかった。

Fin_



〜あとがき〜

はい、即急で書き上げた・・・ものを修正しました。
大きくト書きを修正したのに対し、セリフはほとんど使い回しという
やる気のなさがありますが、その点は笑って許してやってください(^^;)
因みにつまらなさは据え置きです(笑)


「ピロの大冒険♪」修正前
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