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MISTY CASTLE -はるひら作 KANON 相沢祐一、魔法使いになる-




迎える季節は春。気持ち良いほどに陽気な天気だった。
歌うことに目覚めたばかりのように、鳥はさえずりを止めない。
桜はと言うと、見事にピンク色に染まり、その自身を持って世界を飾っていた。
森では冬眠していた動物達が寝ぼけ眼で巣から顔を出すそんな日。
そう、今日は一人ぐらい馬鹿が出てもおかしくはない陽気だった。


変人――相沢祐一は、学校の机で唸っていた。
あらゆる授業を無視し、それで教師の反感をかってもさらに無視。
授業の平常点がいくらマイナスされようと全然OKと云う態度で、
その日、放課後までずっと唸り続けていた。

「だよな……俺は主人公だもんなぁ」

時々なにやら呟き声が、前の席の北川潤の所まで聞こえてきた。
祐一が何やら訳の分からない事を企んでいると知ると、
真っ先に北川は関わらないとこころに決めた。
……その身を以って感じた経験から、
何よりこの世にいでし時より備えられいる本能として知っていた。

相沢祐一は、この上なく変な男であることを――――


日差しは少し強さを失い始めてきた、放課後。
名雪の恒例放課後報告さえも聞き入れず唸っていた祐一は、
首を百八十度回して、さらに三百六十度回転させた。
今度はそれをもとに戻すように逆半回転し、首の位置が戻る。
次に手と手を不思議な印のように組み合わせては解き、
ギュッと強く拳を握り締めては、そこからマジックのようにサイコロを出した。
そしてその右手を差し出して、その自分の机の上でサイコロを転がし始めた。

――――彼の行動は理解不能だ。彼を知るものは誰もがそう呟く。
奇怪と言うよりは突発。どうも規則性に欠けるとの事であった。
きっと一つ一つに意味はないのだろうと、某アンテナ悪友は語る。

やがてカタッと音を立てて、サイコロが止まった。


「!――よっしゃ、名雪。俺は決めたぞ」

――――六の目が出た次の瞬間。相沢祐一は実に六時間ぶりに動いた。

「祐一ぃ、何を決めたの?」

部活もなく、待ちわびていた名雪が義理と人情で尋ねる。
その言葉を待っていたとばかりに、祐一は本日最高の笑みを浮かべて言った。



「うむ。今日から俺は魔法使いだ――――!」









MISTY CASTLE 1111HIT記念
突発性馬鹿系SS

相沢祐一、魔法使いになる
/前編


Present by はるひら









「相沢君。すぐにでも手品師マジシャンになりたいなら、
 今駅前の本屋で『これで友達を驚かせよう、らくらく手品100』があるわよ」

そこにウェーブの髪をふわふわと漂わせながら、美坂香里が冷静に言った。
現在、彼女は呆れながらにも怒っていた。
その原因は至って簡単である。放課後になりすでに一時間が経っていたのだ。
親友の名雪がどうしても祐一と一緒に帰りたいと言うので、
嫌々ながら祐一がこっちの世界に帰ってくるのを待っていたわけだが、
その祐一はなかなか目覚めない。うんうん唸るだけである。
こうなった彼には一言もコミュニケーションとして通じないのを知っている香里は、
とりあえず暇つぶしに本でも読みながら、彼の復活を待つことにした。
そして、この復活。やはりと言うべきか、彼の発言は呆れたものであった。
もっとマジメな議題であれば、それこそ待っていた方は救われるのだが――――

「あのな、香里。俺がなるのは手品師じゃなくて、魔術師だ!
 それと俺はそこまでパーティのネタに困ってないぞ」
「それもそうね。相沢君の存在がギャグですものね」

そう言いながら香里は冷ややかな目で、祐一を見た。

「それ、何か酷くないか? 北川じゃないんだぞ、俺は!」
「同じようなものよ。あたしにとって北川君が馬鹿やろうが、
 相沢君がアホをしでかしてようが、結局迷惑してるだけだもの。
 ほら、結果論で言えば同意義になるでしょう? 簡単な理論だわ」

「……う、確かに良く考えればそれもそうだぁ〜」

香里の無理難解な理論攻めに、何か人として間違った納得をしてしまった祐一。
それを見て香里は、さて問題解決ねと名雪の袖を引っ張っり帰ろうとした。

「お、おい待てって! 俺がせっかく魔法使いになろうってんだからもう少し付き合ってくれよ」

上手く話が反らされ、あわやもう少しで試行錯誤(妄想空間?)の六時間の努力が
無駄に帰すと云うところで踏み止まり、祐一は魔法使いになることを思い出し力説し始めた。
まるでカンペでも用意されているかのように祐一は止まらず喋った。
もうそれはいかに魔法使いが凄いか、便利か、格好よいか、
そして萌えであるかを良く分からないテンションで語り続けた。


「――――とどのつまりだ。魔法使いは素晴らしいわけだ、分かったか愚民どもよ」

なぜか誇らしげな祐一。ふん、と鼻息を鳴らす。

「……誰が愚民よ。人が話を聞いてあげてるのに。
 話を戻すけど、結論的に相沢君が何を言おうと魔法使いになれるはずないわけよ。
 幾らこの前の英語のテストで酷い点取ったからといって現実逃避しないの。
 ……もっと現実を見なさい、相沢君」

ビシッと香里はこの話題の根底とも言えるポイントを突いた。
決してこの世界はファンタジーではなく、、あくまで立派なサイエンスの世界である。
広く一般に言えば、魔法とは夢物語であり、非現実的なモノ。
つまり常識の少しでもある人が聞けば、これは彼の戯言に過ぎないのだ。

「え? 祐一、この前のテスト悪かったの?」

その事より、まずはテストのことに名雪が反応した。
この前の英語のテストとは、二日前に抜き打ちで行われた小テストの事だった。
簡単な文法問題だったが、苦手な物は苦手と祐一は捨ててかかっていたのは記憶に新しい。

「……21点だ。特に悪いとは思えん!」

……そんな訳でもちろん、その結果は散々であったが。
そしてその点数を聞くと、名雪はらしくなく深く悟ったように頷いた。

「うん、そうだよねー。わたしも19点だったよ」
「あ、あなたたちは……」

片や一年次より学年主席をキープしている秀才と、
片やテストの順位は下から数えたほうが早い者では、
すでにその感性すら違うものとなっていたようで、香里は首を落とさずにはいられなかった。
仮にも親友である名雪とその従兄弟の明らかに程度の低い会話に、
少しげんなりする香里であったが、少しため息をついてからその話を切った。

「――はぁ、もうテストの事はもういいわ。
 あなた達が普段どれだけ勉強してないかがよーーく分かったから。
 ……ねぇ、それはいいとして今は相沢君の魔法の事でしょう?
 名雪が会話に参加するとすぐ話題がずれるんだから。
 それで結論から言うと、そんなもの存在しないんだから諦めて勉強しなさいって事ね」

と、香里は言った。これはもはや常識的結論であった。
誰に聞いても十中八九、返って来る答えはこれと同じである。
そして何より香里はそれを代表するような論理的な思考の持ち主である。
この目で見たもの以外の存在は一切信用しなのが彼女の信念だ。
だから魔法やら幽霊やらUFOやらそう言う類には否定的な面を持っている。
それを知っている相沢祐一はもちろん、その返答を予測していた。

その上で、彼は密かに微笑んだのだった。

「――――ふふふ、甘いなかおりん」
「祐一、不気味だよ」

さりげなく名雪が毒舌するが、祐一は気にした様子もなく香里の方を向いて喋った。

「香里。そこまで言うなら、魔法が存在する証拠を見せてやろうじゃないか!
 ただし存在するって分かったら、香里には魔法使いのパートナーしてもらうからな」



「……自信たっぷりね、まあいいわ。見せて貰いましょう、証拠とやらを」







§§§







「あぅー、祐一。本当にここに居たら肉まんくれるんでしょうねー?」
「真琴ちゃん。あまり女の子が食い意地張っちゃダメだよ」
「うるさいわねー、ちびあゆに言われたくないわよぉ!」
「……う、うぐぅ。ボク、お姉さん」


「…………」


この日、香里は水瀬家にお邪魔していた。無論、祐一に呼ばれたからだった。
香里は繰り広げられている光景にげんなりして、この光景から目を逸らすように俯いた。
そして香里ははぁっと、わざと祐一に聞こえる程の大きなため息をついた。

「……相沢君、これのどこが魔法のある証拠なの? あたし帰っていいかしら?」
「気持ちも分からんではないが、早まるな香里。これからちょい実演を交えて見せてやる」

すると、祐一はリビングでごろごろしている真琴を手招きでこちらに呼び寄せた。
ついに肉まんが貰えると、彼女はそれにうきうきでオーケーした。

「あれ? 祐一、肉まんはどこよぉ」

真琴は目を輝かせ目標物である肉まんをキョロキョロと探したが、
もちろん祐一はそんなものを用意してないので、当然見つかるはずもない。
そんな真琴を説得するように祐一は真琴の前に立ち肩をガシッと掴んだ。

「それは後だ。後。それより真琴、香里に教えてやれ。お前はなんなのかを!
 そして(俺のために)魔法があると証明させてやってくれ!」
「真琴は真琴よぅ! 当たり前なこと聞かないでよ。まったく、祐一って馬鹿ねー」

きゃはは、と人を小馬鹿にするように笑っている真琴に、
とりあえず祐一は、お約束の拳骨を一発食らわせた。
ゴンッと言う何とも的を得た擬似音が水瀬家のリビングに響き渡った。

「な、なによぉ!」

当然、全然悪いことをしたと思っていない真琴は怒った。

「馬鹿はてめーだ! 俺はお前がキツネだって事を言ってやれって言ったんだ。
 真琴、お前は一を知って二を知ることも出来んのか? それじゃ良い大人になれないぞ」

そう言いながら、祐一がふふんと鼻息で真琴をあしらう。
だがその二人とは別に、横でこの話を聞いていた香里に変化があった。

「え?」

香里の聴覚はその何気ない応酬の中に一言、気になる言葉を見つけてしまった。
グルグルとその言葉を頭の中で回転させ、香里の脳は自分にまさかと意を込めて、
非常識を常識に置き換えて、自分に言い聞かせるように自己完結を始めた。

「キツネ? ああ、うどんでしょ?」

「……香里、熱でもあるのか?」

思わず祐一が、香里のおでこに手を当てて熱を測ろうとしたが、
そんなわけないでしょ、と香里に左手でパシッと跳ね除けられた。

「何よ、熱があるのは相沢君でしょ……キツネなんて、もう。
 ああ分かったわ。真琴ちゃんは確か近くの保育園でバイトしてるんですってね。
 それでお遊戯の時間にキツネ役をやる事になったね。
 なるほど、納得がいったわ。ああ、そう言う事ね。あのね、相沢君そう言う事なら――――」

「真琴ー、今日もお耳触らせてー」


まさにちょうど、と言うべきか香里のセリフを遮りながらそのタイミングを謀ったように、
私服に着替え終わった名雪がドタドタと騒がしく階段を降り、自室から戻ってきた。
しかし普通ならお邪魔してきている香里とおしゃべりを始めるのだが、今日は違っていた。
と言うよりもこれが近頃の彼女の日課になっていると言っても差し支えなかった。

「ちょ、ちょっと名雪、痛いわよぉ。そこ、祐一に殴られたんだからぁー」

名雪は、リビングのソファーで祐一から殴られた頭を撫でていた真琴の頭をぐいっ引き寄せ、
頭髪を掻き分けて、そこからあるモノを取り出した。

ひょっこり、動物の耳を。

「え? そうなの? ……祐一、ネコさん虐めちゃダメだよ〜!」
「だから、キツネだって」

目を疑った。とその表現が正しいであろう香里の表情。
その耳は間違いなく獣の耳。頭のてっぺんよりやや側面前寄りから生えている。
しかもそれが偽物ではないと主張するようにピクピク動いている。
名雪はそれをフニフニと実に気持ちよさそうに触り、引き伸ばして遊んでいる。
その度に真琴の顔が少し歪んでいるのが見て取れた。

その香里の表情を見て、予想通りだと細く微笑んだ、祐一。
その状態で呆けている香里に祐一はどうしたんだ? とわざとらしく声を掛ける。


「……耳?」

「耳」

「……作り物?」

「本物」

「……付属品?」

「標準装備」

「うー、この感触がたまらないよぉー。まさにだおーだよ〜」
「名雪、くすぐったいわよぉ〜……いたっ! そこタンコブだってばっ!」

唖然と香里が虚ろな質問を重ねる中、名雪は今だ真琴の耳を引っ張り続けていた。
時折、タンコブに名雪の手が触れてしまい、真琴から痛いと声が上がる。

「あ、あははは。特撮って日常生活にもあるのね?」
「おい……やっぱ香里、熱あるんじゃないの?」

と祐一が手を香里の額に再び当てるが今度は振り払おうとせず、
その視線は名雪が引っ張っている耳に釘付けで、祐一の存在などまったく気付いていない。
時折「現実を見て分析しなさい、美坂香里…これは夢よ、夢」などの呟きが聞こえる。
今ならかおりんは触り放題だなとセクハラな考えが祐一に浮かんだのは言うまでもあるまい。


そんな光景をあゆが、何か同情した視線を含めて眺めている。

「……真琴ちゃんも毎日大変だね。ボク、ネコ耳が無くてよかったよ」
「キツネは犬科だ。故に、ネコ耳じゃなくてイヌ耳だ」

あゆの知識を補うように突っ込みを入れる祐一。
これが、餡子しか入っていない頭とあゆが祐一に馬鹿にされる由縁たる光景だろう。
そんなあゆを何時ものようにからかう訳でなく、祐一はジロリあゆを見回した。
あゆはその視線に言い知れぬ悪寒を感じつつも、見て見ぬ振りした。

「ところであゆ――――」
「な、何かな、祐一君」

ば、ばれちゃったかな? とあゆに不安の疑念が一滴の汗と共に過ぎった。
他人から見ればバレバレながらも、あくまでその動揺を隠そうとする。

「お前――――また許可なく離脱してるな? 本体はどこだ?」
「し、してないよ! ボク今幽体離脱なんてしてないよ」

そう言って露骨に顔を逸らす人を誰が信じるであろうか。
祐一は少し唸るような仕草の後、ポンッと手を叩いて頷いた。

「ははぁん。さてはあそこだな」
「うぐぅ。な、何で、祐一君がベットにボクの体があること知ってるんだよっ?」

「ちょ、ちょっと今度は何なのよ!? 幽体離脱って……そ、その幽霊!?
 これ以上の冗談はいらないわよ……ねぇ、相沢君これってどっきりなんしょ?」

ある意味それはすでに懇願に近かったのかもしれない。
彼女の中では科学や常識とは絶対的不変要素になっているのだ。
中枢部をズガズガと崩されているのだから無理は無い。

「ふ。まあ、香里今証拠を見せるから焦るな。さあ、あゆ。ついにボロを出したな。
 お前のベットにあるのは裏が取れてるんだ! 行くぞ」
「うぐぅ、祐一君のくせに、ゆうどうじんもんしたね!?」
「誘導尋問も漢字で書けないお前が悪い」

と、誇った顔で祐一は言いのけた。それに反論できないあゆは、少し涙を浮かばせた。
祐一は、その後すぐにあゆを引っ張ってあゆの部屋に向かった。
香里も興味本位半分、祐一に急かされる事半分であゆの部屋に向かった。

途中あゆが、何で祐一君はボクが幽体離脱してるの分かったのと聞くと……

「お前は幽霊になると必ずあの赤いカチュシャーをするからな」

「うぐぅ、そうだったんだ。今度から気を付けなきゃ」と反省した様子なしに、
その小さい頭を捻って次の案を捻出していた。


「やっぱりここで離脱したな」

その言葉通り、あゆの本体とも言うべき肉体はベットで寝ていた。
寝ると言う表現はおかしいが、その表情はまるで寝ている人のそれだった。
香里はそれを見た瞬間、ピシッと擬音を立てて香里の表情が文字通り凍りついた。
同じ顔が二つ。寝ているあゆと、魂のあゆ。交互に見て、また固まる。

「さて、あゆ。どうして勝手に離脱したんだ。ありゃ危ないから止めろって言ってあるだろ?
 ここはあれだな、秋子さんに直接叱ってもらうしかないな、邪夢で」

最後のワードを口にすると、あゆの背筋がビクッと振るえて真っ直ぐになった。

「うぐっ! ご、ご、ごめんなさい。もうしません!
 あの体だとおなかいっぱいにタイヤキが食べれないからって、
 もう勝手に幽体離脱しません! だから秋子さんには言わないでよ、ね? 祐一君」
「またそんな理由で離脱したんかい!」
「うぐぅ。だってタイヤキいっぱい食べるのがボクの夢なんだもん」
「お前の夢は一体何回達成されれば気が済むんだ……」

でもまあ、秋子さんにはもうばれてるだろうな、と付け足す祐一にあゆは顔面を蒼白にした。
だがそのあゆよりも、遥かに顔面が蒼白な人がいた。
言わずとも、それは隣でこの非常識な光景を見ていた香里だった。
同じ顔が二つ。一つはベットに、一つは隣に足でちゃんと立っている
クローン技術が応用を利かせる現代でも、まだ同じ顔の人間が二人居れば誰だって驚くだろう。

「――しきよ、こんなの。ひ……しきだわ」
「ん? 何だ、香里?」

端で香里の呟きが聞こえる。あゆと祐一はそれに注意深く聞く。

「――――ひ、非常識だわ!」
「うぐっ! 酷いよ、香里さん」


「だいたい幽体離脱って何よ? 常識的に考えてみなさい!
 人間はね酸化的リン酸化反応に代表されるATP産出機構と、
 外界からの物質代謝が働く事によって生命たるものを維持しているのよ!?
 何よ、その、ゆ、幽体って! ホント非常識ね、まったく。
 そんなものがあったら脳死も心停止も死んだって事にならなくなるじゃない!
 あのね命って言うのはそうした化学反応の連続性を持っているのよ? つまり――」


「お、落ち着け香里。言いたい事は分かったから落ち着けっ!」

あまりの香里のヒステリック振りに腰を引かせながら、祐一が羽交い絞めで止めにかかる。
香里はそんな事実認めてなるものかと、必至にあゆに科学論をぶつける。

「ちょ、放しなさい、相沢君! この子に科学的な在り方を教えてあげるんだから!」

「…うぐぅ。何か香里さん、怖いよ」

あゆの呟きを後に、この騒動は名雪が登場する約十分間続いたと言う。




「もう落ち着いたわ。ごめんなさい」

リビングに戻って少し休むと香里の騒動は治まった。
しかし顔色は相変わらず悪い。実は余命一ヶ月ですと言われても誰も疑われはしないだろう。
名雪はキッチンから、紅茶セットを持ってきて香里の前に置いた。

「このハーブティーおいしんだよ〜」
「あ、ありがとう名雪」

しかしその返事にも元気がなく、理由を知らない名雪は不思議にその光景を見ていた。
名雪の中の香里像とは、凛々しくいつもクールな態度で物事を何でもこなしてしまう人である。
今の香里は凛々しいと程遠く、疲れを一心にその顔に出していた。

「さて、香里。魔法があるって可能性、十分に分かっただろ?」
「ええもう、それは十二分にね」

「じゃあ――――!」

祐一はやっとこの事、パートナーの同意を得られ声を上げて喜んだ。
このパートナー、名雪、あゆ、真琴の水瀬三姉妹では絶対に務まらないのは、
祐一の日常生活からして当然の理であった。であるから香里にこうして協力を求めているのだ。

「ごめんなさいね。そのパートナーとやらは他を当たってくれる?
 あたし帰るわ。頭痛がするし……何かもう疲れちゃっって……」

「え゛?」

香里は死相を浮かべながら、ふらふらと覚束ない足取りで水瀬家のリビングから姿を消した。
がたんっと最後に玄関のドアが閉まると音と共に祐一がハッと気付いて叫んだ。

「お、おい。か、香里ぃー! 約束が違うぞぉ〜!」

かくして相沢祐一は協力者パートナー候補を失い、しばらくリビングに唖然と、佇んでいた。


「あぅー、祐一早く肉まんよこしなさいよぉ!」
「うぐぅ、幽体離脱の戻り方忘れた」






§§§







「……はぁ」

騒がしい家を出て、一人祐一は近くの川沿いを歩いていた。
チチチッと小鳥が空を飛んでいる。
そんな空を見上げながら、祐一はため息を吐いた。

――――こんなはずじゃなかったんだがなぁ。
なんで誰も俺の美学を分かってくれないんだ。
魔法が使えたら良いってみんな思わないのか?
それをテレビ局にでも売り込めば富も名誉もウッハウハじゃないか!
世紀末の大魔術師「わんだふぉーAIZAWA」現る! なんて新聞の見出しに……いいなぁ。

道の途中で不気味に笑い出す祐一の姿は、人目を引くに十分だったが幸いにも人はいない。
祐一は魔法が何故人に理解されないのかをずっと考えていた。
これほどまでに便利でかっこよくて萌えな技術がかつてあっただろうか?
いや無いと、こころの中で反語を使い必至に思考を巡らせている
ふと、そこで祐一は閃いたように思い立った。

「いや、待てよ。これはもしや、俺の美学がちょっと未来を行き過ぎただけでは?
 どこぞの法則を発見した歴史に出てくるど偉い科学者だって、
 最初は画期的すぎて学会で叩かれてるって相場がある。それと同じだ!
 まだ周りが俺の美学に付いていってないだけだ、きっとそうに違いない」

そこに来て、今度はどうやって周りの美意識を自分に追いつかせるかを考えた。
祐一は思う。まだ彼等は魔法の素晴らしさを知らないのだ。それがいけないと。
誰だってまずはお試しコーナーが欲しいものだ。となれば祐一の頭の回転は速かった。

「うむ。こうなったら、先に魔法を学んでから話を聞いてもらおう。
 やはり非現実的な存在を立証するよりも、魔法を立証する方が効果的だろう。
 いやでも、となればちょっと自分一人で独学じゃあ厳しいな」

――――……とりあえず誰か手伝ってくれそうな人で心当たりは――――


祐一の脳裏にある人の顔がパッと浮かんだ。

「――――そうだなぁ、こう云うときは……」





1、やっぱし謎の多い秋子さんらへんは、魔法ぐらいけるだろう!

2、ちまたではマジカルさゆりんで通ってる佐祐理さんで決定だな!

3、実在する超能力者、舞に直撃リポートだ!




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4、いや、そもそも設定が悪いんだ。作者に取り合おう! inserted by FC2 system