コツ、コツ、コツ…。
ただ歩行音だけが現れては、闇に溶けて消える。
時折、寂しさを紛らわす為に当てもなく呼び掛けてみる。だが、幾度呼び掛けても応答はない。虚しくも闇に呑み込まれていく。
思わず孤独という名の圧力に押し潰されそうになる。
それでも、歩みを止めずに済んでいるのは、無意識の内に淡い期待、そして行動力を持っている為かもしれない。
しかしそれも何時まで持つか、皆目見当がつかない。
このままこの世界で朽ち果ててしまうのだろうか。
一向に世界に光を見出せず、足取りも次第に重くなる。
そして、いつしか足は止まってしまった。
必死になって力を振り絞り前進を試みる。が、おいそれと言うことを聞いてはくれない。
もう、駄目なのか…。そう思った矢先、腰が抜け脆くもその場に倒れこんでしまった。
それは、思いが闇に食われた瞬間だった。
もう駄目なんだ。『諦め』という言葉が脳裏を過ぎった。
無理もない。温もりの欠片も感じさせない世界を、長時間彷徨っていたのだから。
長かったこの旅もこれで終わり。
そう思うと、不思議と笑いがこみ上げて来た。
自分の情けなさを嘲笑しているのか、或いはこれで全てが終わるんだという安堵感が引き起こしたものなのか。それは定かではない。
いや、もはやそんなことはどうでもよかったというべきか。
どの道結果に変わりはなく、あとは最期の時を迎えるのを待つだけなのだから。
目を閉じて今か今かとその時を待つ。
恐怖心はない。いつかはこうなることなど初めから容易に想像できていた。
否、それは真実ではない。
想像できていたのではなく、勝手に思いこんでいたのだ。
そして、強く思い込む余り自らその結果を招いてしまった。
物語は最初から決まっていた筈ではないのに…。
自ら作り出すモノの筈なのに…。
と、その刹那。
頬を何かが伝わった。それは、目から知らぬ間に溢れ出して来た涙だった。
絶えることはない。
そうして間にどれくらいの時が過ぎただろうか。ひょっとしたら水溜りができるほどであったかもしれない。
漸く重い腰を上げることができた。
いつからだろうか。先程まではなかった風の流れを感じる。
不意のことに驚き、続いて風の発生方向だけでなく周囲を見渡してみる。しかし、相変らず光は見えない。
否。恐らく光は見えていないのではない。感じることができていないのだ。
真に信じて歩みを止めない者のみが光を見出せるに違いない。
まだ、物語は終わってはいない。
今後の行動次第で結末を変えることだってできる。
だから…だから私は、歩み続ける。